はじめに 入管収容所の某ドキュメンタリー映画は何が問題か

 

目次


PDFで読む(全文)


はじめに

2022年2月7日 柏崎 正憲


映画『牛久』の映像は出演者の意志を無視して公表された

『牛久』と題した入管収容所についてのドキュメンタリー映画が、もうすぐ上映開始だそうです。

この映画の作者トマス・アッシュは、映画ウェブサイトの「ステートメント」に載せた昨年6月9日付の声明(1頁2頁)に、こういうことを書いています。

出演者の一人を支援する者が「隠し撮り映像を同意なく公開した」と情報を流したせいで「大変困難な状況に置かれ」た、しかしそれは「誤った情報」だと。


このステートメントで出演者の支援者と名指されている者、少なくともその一人が、このブログの著者、柏崎正憲です。

わたし柏崎は、2009年末から日本入管収容に反対する活動をしています。

上記の出演者である友人(お名前は公表されていますが、このブログでは伏せます)のことは、2018年3月から現在まで、継続的に支援しています。

(わたし自身は「支援者」というより、当事者も自分も、共通の目標のために力をあわせる「協力者」だと考えていますが、とりあえず以下でも「支援者」と名乗ることにします。)


さて平たくいえば、わたしは映画『牛久』の作者アッシュに、上記の声明で嘘つき呼ばわりされているわけです。

しかし、映像作家アッシュが友人の意志を無視して映画を公表したことは事実だと、わたしはこのブログであらためて証言します。

友人が話してくれたことに、そして自分自身が経験したことにもとづいて、わたしは自分が知っているかぎりのことを、ここに説明します。

それによって、この件で事実を歪めているのは「支援者」ではなく映画の作者アッシュだと、じゅうぶんに証明されるはずです。


あらかじめ簡潔にいえば、こういう事情でした。

友人は、日本語による「同意書」なる文書(ただし内容不明)にサインをしたあとに、自分の「隠し撮り映像」の主要部分を映像作家アッシュに見せられました。

そのとき友人はアッシュに、映像を公表する判断をするまえに弁護士や支援者と相談したいと申し出ました。

しかしその四か月後、アッシュは友人の意向を無視したまま、かれの隠し撮り映像を含む映画『牛久』のトレーラーを公開しました。

それまでに、友人は何度もアッシュに同じ意向を表明していたのに。

このことを「同意があった」といえるのかどうか。わたしの記事を読んだうえで、読者は判断すればいいでしょう。


発表が遅れた理由

わたしが自分自身の名で証言を公表しようと決めたきっかけは、もちろんこの映画の一般上映が発表されたことです。

しかし問題が表に出たのは、映画のトレーラーが公開された昨年5月11日以降でした。

その時期に説明すればよかったではないか。そう言われるかもしれません。

もちろんそのつもりでした。

しかし友人が、身の回りの騒ぎが早く静まることを望んだのです。

それは、映像作家アッシュの取り巻きが友人を執ように責め、それに友人が耐えられなくなったせいです。つまり、これもアッシュのせいです。


当時、友人はまだ収容を解かれて1年だったし、治療中の病気もあります。そのため、騒ぎがよけいに精神にこたえたのです。

このことを友人は、昨年5月23日付の手紙(彼の支援活動ブログに公開)で「多くの人々から、私を侮辱する電話を受けました」と表現しています。

結果として友人は、自分の映像の撤回をもう求めないかわりに、この映画について作者アッシュとも他の誰とも話すことを拒否する、という決断をしました。

その意向をくんで、わたしもさしあたり、自分自身の名で事情を公表することは控えました。いつか別の機会に、みずから発言しようとは考えていましたが。


配給会社が嘘を吹聴

ところが先日、この映画が一般上映されると発表されました。

しかも作者アッシュのみならず、配給会社である株式会社太秦(うずまさ)が、この映画には何も問題がないことを同社も確認済である旨、声明を出したのです。

今年1月21日付の「映画『牛久』劇場公開への経緯説明」なる文章(リンクが切れているのでわたしがDLしたものを参照)には、こう書かれています。

「映画制作時及びその過程において、出演者全員が映画出演に同意していることをあらためて確認をいたしました。」

しかし配給会社うずまさは、アッシュの言い分をうのみにしているか、同意ということばの意味を歪めているか、どちらかでしかありません。


念のため補足すると、同声明でうずまさは「入管問題に取り組んでいる団体・個人にご挨拶に伺い、監督はじめ、皆さまと話し合いを重ね」たうえで上映を決めたと書いていますが、これも事実ではありません。

少なくとも一出演者である友人や、その支援者であるわたしには、配給会社のうずまさから挨拶や話し合いの申し出はありませんでした。


映画それ自体がどうなるかは、わたしの知ったことではありません(友人がアッシュや映画との関わりを断ちたいと意志表示したので)。

しかし、このような嘘を吹聴されて、もはや黙ってはいられないのです。

いまや入管問題に取り組んできた一部の人たちも、映画を「賛否両論ありますが」などといいながら積極宣伝し、または宣伝に協力する始末。

映画を宣伝すること自体はともかくとしても、作者アッシュや配給会社うずまさの嘘がそのまま垂れ流されるのを、平然と見ていることはできません。

        

いまこそ、わたしが自分の名で、自分自身で見聞きしたことにもとづいて、事情を説明し、悪意ある嘘にたいして事実を提示しなければなりません。

なお友人にも、私がそうすることは承知してもらっています。


証言の目的

わたしが証言を公表する目的を、あらかじめ示しておきます。

念のためふたたび断っておくと、映画『牛久』の上映停止や一部映像の削除を求めるためではありません。

当初は友人の映像の削除をアッシュに求めていましたが、本人がそれを要求しないと表明してからは、わたしも映画についての要求はやめています。


他の映画出演者の意向に口を挟むつもりもありません。

ちなみに他の出演者の一人はわたしの別の友人ですが、かれが出演に同意していることは承知しており、本件についてお互いに相手の意向には介入せず、交流も支援も続けています。


隠し撮りという手法自体が主な問題だと、わたしが主張したこともありません。

わたしはアッシュの映画の手法に批判的ですが、それだけを理由に映画を公表すべきでないとは主張したことはありません。

あくまで、友人の意志を無視して映像を公開したことを問題にしているのです。


わたしの目的は、二つあります。

第一に、映画『牛久』の制作・発表の過程において友人が受けた侮辱について、作者アッシュや配給会社うずまさが、どう事実を歪めているのかを明らかにするためです。

とはいえ、アッシュやその仲間たちが非を認めることはないでしょうし、そのことは目標にしていません。

しかし映画を擁護しようと最初から決めている人間以外には、何が問題なのかはじゅうぶん分ってもらえると考えます。


第二の目的は、今後トマス・アッシュの映像の題材にされる人にたいして、気をつけたほうがいいと警告するためです。

アッシュは被写体の意志を軽んじ、その尊厳をふみにじる人間です。すくなくとも友人にたいしては、そのようにアッシュはふるまいました。


なお本ブログの全記事の文責は、筆者の柏崎のみにあります。

内容にかんする問合せなどがあれば、柏崎にご連絡を。


柏崎 正憲 080 8844 7318


次の記事 「1 出演者の意向を無視